ストーリー

*本記事は、地域に根ざしたWeb制作・広報支援を行う「まちのWeb編集室」による取材・執筆記事です。

長崎市南部地区は、自然豊かな風景に囲まれながら、暮らす住民同士の繋がりや絆が強く感じられるエリアです。中でも為石(ためし)町は、海と山の隣に佇む、のどかで穏やかな時間が流れるまち。

このまちの一角に事業所を構える、ウェルネスケアステーションローカル。高齢化が進み、担い手不足に悩む地域で、訪問介護や介護タクシー事業を展開しています。

代表の伊場 亨(とおる)さんも為石で生まれ、元気な幼少期を過ごしました。現在は介護という仕事に出会い、日々誰かのために奔走しています。

訪問介護の仕事の他にも、リトルペーロンや長崎市南部7カ町の大型地域イベント「ナナフェス」実行委員をはじめとする、さまざまな地域活動の担い手としても活躍。まさに、仕事でもプライベートでも南部地区を支えてくれている人物なのです。

この記事では、伊場さんのストーリーを紹介すると共に、ウェルネスケアステーションローカルで働く未来の仲間へのメッセージをお届けします。

介護職との出会いで再スタート

伊場さんは高校卒業後、親戚の誘いで福岡のデザイン専門学校へ進学しました。

 「別に就職も進学も何も決まってなかったけん、来てみるやって言われて行ったみたんよね。でも2ヶ月くらいですぐに辞めて。地元に戻って、バイトや親の電気屋の手伝いで何年も経ってたんよ」 

地元でなんとなく働いているうちに、同級生が大学を卒業して就職していく。身近な人たちが介護に関わる仕事をしていたことにも後押しされ、伊場さんはヘルパーの資格を取ることを決意しました。

“自分もやっぱり、ちゃんと働かんと。”

「実習先でそのまま働くことになって。ヘルパー、デイサービス、管理者、ケアマネなど現場をひと通り経験して、最後は取締役までさせてもらいました。グループ会社内での異動も含めると、18年在籍したことになるかな」 

介護の現場を肌で感じ、そこで培った経験やノウハウ。そしてこのあと訪れる出来事をきっかけに、伊場さんの人生はさらに大きく変化することになります。

「自分の人生、好きなことやらんば」

「40歳のとき、脳梗塞になったんだよね。これが独立の大きなきっかけ」

初めて救急車で運ばれて以降、20日間の入院と1週間の自宅療養。復帰した2日後にまた倒れて救急車に……死がちらついた当時の話を、伊場さんは時折笑い話に変えながら振り返ってくれました。

この期間に、自身の人生について見つめ直したという伊場さん。そこに飛び込んできたのが、Instagramで野母崎の魅力を発信していた「のもざきぐらむ」でした。

「やっぱりそうよね。自分の好きなことを自由にせんばねって」

やりたいことで生きていく人生。投稿に込められているメッセージに、伊場さんは心を大きく揺さぶられました。

“独立したい”という思いを10年前から抱きながら、なかなか一歩を踏み出せずにいたという伊場さんでしたが、脳梗塞が決定打となり独立を決断。それから懸命にリハビリをこなし、後遺症もなく無事退院。程なく退職して起業し、舵を大きく切りました。

好き・得意・ニーズの3つが重なる場所で

ウェルネスケアステーションローカルでは、ご自宅に訪問して身体介護や生活援助を行う訪問介護と、通院や外出をサポートする移動の支援(介護タクシー・福祉タクシー・移送支援サービス)の2つを軸に事業を行っています。

なぜこのように「訪問介護」が中心の事業を選んだのでしょうか?

「昔から車が趣味で、運転するのも好きだったから、介護タクシーをやりたかったんよね。そのためにはまずヘルパー事業所を立ち上げる必要があって。長年ヘルパーをしている妻とも協力しながら、時間をかけて体制を整えていきました」

自宅からのお出かけに利用する人、車椅子の人、透析患者で週に数回の通院がある人などをお迎えし、介助しながら目的地まで送り届けます。

これらの依頼は利用者さんから直接来るわけではなく、地域の介護支援専門員であるケアマネジャーを介して行われます。かつてケアマネも経験していた伊場さんだからこそ、地域でのニーズを感じ取っていました。

「ケアマネしていて思ったのは、南部方面でヘルパー事業所と介護タクシーがとても少ないこと。だからすごくニーズがあって、依頼の電話がたくさん来ます。ケアマネ時代の横の繋がりがあることも大きくて、よく頼ってくれています」

自身がやりたいこと、地域から求められていること、そして今までのキャリアで培った強み。それぞれが重なる領域で事業を行うことを大切にしていると、伊場さんは教えてくれました。

ライフスタイルに寄り添う働き方

最後に、働き方や求める人材についてお尋ねしてみました。

ウェルネスケアステーションローカルの働き方は、直行・直帰が基本です。スタッフは自宅から利用者さん宅へ向かい、業務が終わればそのまま帰宅できるのだそう。日々の連絡は主にLINEを活用しながら、月に一度、ミーティングや研修の際に事務所に出社する程度です。

スケジュール管理には介護ソフトを導入し、一部ではAIも活用しながら効率化。現場に集中できる環境が整えられているのも特徴です。

さらに、ヘルパー職員の時給も相場より高めに設定。ニーズが高い仕事だからこそ、しっかりと働きに見合う金額で還元しています。

「扶養の範囲内で働く人であれば、1日2〜3時間ほどの勤務でも成り立つんですよ。訪問先もこの地域内なので、午前に仕事、午後は家事をするなど家庭とも両立しながら働きやすいと思います」

ヘルパーは1人で利用者宅に出向き、調理をしたり現場判断をしたりする場面が多い職業。気が利いて話しやすい人や落ち着いて対応できる人に向いています。

また、これから事業をより成長させていくために必要なのは、マネジメント能力のある人材。ケアマネとの調整やヘルパーのスケジュール管理を担う仲間が増えると、伊場さん自身も訪問介護の現場に出ることができます。

地域に必要な仕事を、自分らしい生き方で実現できる職場。新しい仲間が増えれば、ウェルネスケアステーションローカルの可能性が広がっていきそうな予感がしました。

今は誰かのために、このまちを駆け回る

取材の最後に、少しだけ事業所の近所を案内してもらいました。

子どもの頃は海がお決まりの遊び場だったこと、テトラポッドを走り回って怪我したこと、自転車で町中を駆け回っていたこと。

伊場さんの原風景を辿りながら、思い出がよみがえります。

「近所のおじちゃんおばちゃん達から『危なっことばっかりしてから』って言われる子どもやったね(笑)」 

生まれ育ったまちの風景を見ながら、介護タクシーに乗って走っている伊場さん。ヘルパーやタクシーを待っている人のために、地元に根ざした仕事を生み出し、今日も誰かの暮らしを支えています。

Writer / 森 恭佑
Photographer / 加賀江 開
Editor / 長野 大生